「知」の結集 ゆびすいコラム

2015.12.09

相続放棄の落とし穴

 不運にも父親が借金を抱えて亡くなった場合、相続人となったあなたはどのように対処しますでしょうか?  相続というと、残された住宅や現金などを受け継ぐイメージがありますが、その一方でマイナスの資産も存在します。クレジットカードのカードローンや消費者金融からの借り入れといったものが挙げられます。これらのものを受け継ぐことが足枷になってしまうケースは意外と多いものです。

亡くなった方の借金を肩代わりしてくれと言われても、急に工面することは困難ですし、残された遺族の家計が壊されてしまいます。そこで活用できる制度が、「相続放棄」です。

相続が開始した場合,相続人は次の三つのうちのいずれかを選択することができます。

1.相続人が被相続人(亡くなった方)の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ単純承認
2.相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない相続放棄
3.被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ限定承認
ここでは、相続放棄を選択する事例を説明します。相続放棄をする場合は、相続の権利があることを知ってから3か月以内に家庭裁判所にその旨を申述しなければなりません。一度申述してしまうと、相続財産も債務も受け継がれないことになります。相続の放棄は相続人が単独で行うことができます。

家族3人(父・母・子)のケースで見ていきましょう。

父が亡くなった場合、法定相続分は母が2分の1、子が2分の1となります。多額の借金があるケースで単純承認を選択した場合、借金の負担も2分の1ずつ行わなければなりません。

母と子は検討の結果、相続放棄を申述することを決めました。手続きが終われば一安心!?  ここに落とし穴が潜んでいます。

このケースの場合、第一順位の相続人全員が相続を放棄することになります。その場合、亡くなられた方に直系尊属(父母や祖父母)や兄弟姉妹がいる場合は、相続の権利は第二順位、第三順位の相続人へと移っていくことになってしまいます。この場合は債務が移っていくことになります。

父には弟(叔父)がいたため、母と子が相続放棄をした後に、叔父にも相続放棄の手続きをしてもらわなければなりません。手続きを怠れば、叔父の生活が壊されてしまいます。

また、相続放棄を行う場合、被相続人の財産(預貯金等)には、手を付けてはなりません。相続人が預金を引き出したり名義変更を行ってしまうと、単純承認したと見なされ相続放棄の許可が無効になるおそれがあります。

トラブルを防止するためにも、相続をお考えの際は、期日や手段等を十分にご検討ください。

佐藤 大樹
相続