2017.07.25
前回に引き続き29年度税制改正の内容について説明したいと思います。
今回説明するのは、29年度税制改正の中でもマニアックな改正といわれている「中小企業向けの租税特別措置の適用要件の見直し」です。端的にいうと、「中小企業であっても大企業くらい儲かっている会社は、税制上中小企業とは考えずに、各種の税制特例は適用できなくする」ということです。
中小企業は地域経済の柱となり雇用の大半を担っているにもかかわらず、大企業に比べて財務状況が必ずしも強固であるとは考えられないため、税制上、各種の支援が必要であると考えられてきました。そのため、大企業よりも税制優遇措置が多くありました。
ところが、最近では資本金が1億円以下の法人であっても大企業並みの所得を得ている法人があること、大企業であっても税制優遇措置を受けるために資本金を1億円以下にする法人があること、などの理由により、会社の規模を資本金のみで判定することが実情に合っていないのではないかと問題視されてきました。こうした状況を背景として、今回の改正となりました。
・貸倒引当金の法定繰入率の適用に関する特例
・少額減価償却資産の損金算入特例
対象となる法人が「前3年平均課税所得が15億円超の法人」とされたのは、資本金が1億円超の大企業の過去10年間の平均所得が約15億円であったためと説明されています。ちなみに、資本金が1億円以下の中小企業の平均所得は約1,600万円であったようです。
また、たまたま単年度の業績が好調であったために制限がかかることはこの改正の趣旨に合わないことから、3年間の平均所得で判定されることになっています。
個人的な感想としては、大企業が税制優遇を受けるために減資して資本金を1億円以下にする、といった租税回避に近い節税手法を防止するという観点では納得できる改正です。しかし、多額の所得を稼いでいるとはいえ、中小企業は得意先との取引関係や人材採用等の経営面において、大企業と比べて必ずしも同等の立場にあるとはいいがたいと思います。こうした環境であっても必死の経営努力により所得を稼いだ法人について、税制優遇措置を制限するのは納得しがたいものがあります。
これからの動向が気になる改正ですね。
(税理士 緒方 康人)