賃金額は本来、労使で自由に決めることができるものですが、「最低賃金」として企業が従業員に最低限支払うべき額が定められています。正社員、パート、アルバイトなどすべての従業員に適用されます。
この最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する従業員を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
今回は「地域別最低賃金」についてご説明いたします。
地域別最低賃金について、先日、すべての都道府県の改定額が出揃い、全都道府県が一斉に1,000円の大台に乗りました。まさに歴史的なタイミングと言えそうです。
今年の地域別最低賃金のポイントは、
1.全国47都道府県で63円~82円の引き上げが実施
2.改定額の全国加重平均額は1,121円(昨年度1,055円)
3.過去最高の引き上げとなった昨年を超える66円の引上げ
で、この大幅な引き上げは、物価上昇と政府が掲げる“最低賃金の底上げ/全国平均1,500円”という中長期目標が背景にあります。
例年と異なる特徴として、実施時期までに幅があることです。10月1日に引き上げを実施するのは栃木県の1件のみで、10月2日に新潟県、10月3日に東京都や千葉県、長野県が続きます。そのほか、11月1日や12月1日、1月1日などと実施時期がバラバラで、一番遅いのが秋田県の3月31日となっています。このような分散は、地域間の調整(事業者への準備期間確保など)を意識した動きとして見ることができます。
国からは業務改善助成金の拡充などの支援策が示されていますので、そうした制度も活用しながら、確実に対応を進めておきましょう。
また最低賃金の引き上げは、単なる給与改定にとどまらず、労務管理全体にも影響を及ぼします。
1.人件費の増加
仮に時給が31円引き上げられると、月額換算で5,000円以上の負担増となる計算です。また賃金の上昇に伴い新たに社会保険に加入する従業員がいると、その社会保険料の負担も発生します。場合によっては従業員数や勤務時間の見直しが必要となる可能性もあります。
2.新たな採用が難しくなる
人件費の負担が膨らめば採用にかけるコストを割くことが難しくなる可能性があります。また、周囲の企業も一律に賃金を上げてくるので時給での差別化が難しくなり、採用における競争力が低下してしまいます。そうすると良い人材を獲得するためにさらにコストをかけなければいけなくなります。
3.扶養内で働く従業員の働き控えが発生する
扶養内で働く従業員にとっては、最低賃金の引き上げは手放しで喜べません。扶養範囲を超えないために勤務時間を減らさなければなりません。そのため、扶養内で働いている従業員を多く採用している職場では、人手不足に陥る可能性があります。
最低賃金の引き上げは、企業にとって避けられない外部環境の変化です。
ゆびすい労務センター 井上