夏目漱石の小説に「こころ」という小説があります。
その中に主人公の話から途中で先生の語りへと視点が移動する場面があります。
先生の話の中身はKという青年とお互いに好意を寄せ合っているお嬢さんを取り合うという三角関係がメインです。
先生はお嬢さんへアタックをし、最後はKに黙ってお嬢さんの母親に許可をもらうという抜け駆けをし、Kとのお嬢さんを巡る争いに勝利しますが最後にKは自殺してしまいます。
このKの自殺には様々解釈があり、今の流れだと恋愛に失敗したから自殺したというのが筋ですが、普段からKという青年は「精進、精進」という言葉が口癖である通り、どうにもそれだけではないのでは?という議論があります。
諸説の中にKが先生に裏切られたから自殺したのではないかというものがあります。
Kにとって先生は恋敵であったとともに唯一の友達であり、その先生に自分を裏切る行為をされたことで自殺した、という説です。
人間不信による自殺を扱った小説の先駆けとも言えるでしょう。
利己的な考えによりそれ以上に大事なものをなくしてしまった先生は、主人公に「恋とは罪悪だ」と語ります。
この一連の感情の機微は現代人に非常に似ているとも思えます。
つまり様々な社会環境により孤独を感じやすくなっている今の世の中ではKに共感する人も多いのではないでしょうか。
そういう時だからこそせめて周りの人間だけには気を使っていきたいものです。
(峯岡)