「知」の結集 ゆびすいコラム

2013.02.19

注目の競馬脱税裁判

 今月7日、競馬ファンが固唾をのむ競馬脱税裁判の公判が行われました。

 判決は5月23日で、結果が注目されるところです。

 この事件は、大阪市の会社員男性が馬券配当で得た所得を申告せず脱税したとして所得税法違反に問われた事件です。

 男性は、競馬ファンにとって夢の必勝法を開発。2005年~2009年の期間に約28億7000万円の馬券を購入し、約30億1000万円の配当を得ました。

 これに対し国税局は、外れ馬券の購入額を経費とはせず当たり馬券の購入額のみを経費として認定し、儲けの1億4000万円を大きく上回る5億7000万円を追徴課税しました。

 男性を担当する弁護士は「外れ馬券も所得を生み出す原資であり、経費として認められるべき。一生かけても払いきれないほどの課税は、違法で無効だ」と主張しています。

 1億4000万円の儲けに対し5億7000万円の課税は酷ですので、心情的には弁護側を応援したくなります。しかし実際のところ、弁護側が勝つ可能性はあるのでしょうか。

 この裁判の行方を考える上でのポイントは2つあります。

 1つは男性が稼いだ1億4000万円を「何所得」と見るのか。もう1つは「担税力」という言葉です。

 1つ目のポイントについて、国税局は「一時所得」であるとし、弁護側は「雑所得」であると主張しています。

 一時所得の場合、必要経費は「当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」とされているため、当たり馬券の購入額ということになるでしょう。一方雑所得の場合には、外れ馬券という損失を経費に算入できるため、総購入額が必要経費ということになります。

 馬券の払戻金は、所得税法基本通達において一時所得の例示として掲げられています。

 しかし弁護側は「営利を目的とする継続的行為であり、一時所得ではなく雑所得である」と主張しているのです。

 もう1つのポイントは「担税力」です。これは課税対象者が実際に税金を負担できる能力のことで、税金の考え方の基本です。この事件の場合ですと、1億4000万円の儲けに対して5億7000万円の課税ですから、担税力があるとは言えません。

 この男性は納税で貯蓄が底をつき、手取り約30万円の収入の中から毎月約8万円の納税を続けているそうです。税金は非免責債権ですので、自己破産しても免除されません。

 脱税は犯罪ですのでやってはいけません。法律を厳格に適用すれば、国税局の言う通りということになるでしょう。しかし5億7000万円の課税は、あまりにも不合理である気がします。

 この事件について男性に同情的な意見が多いのは、非常識な課税と感じる人が多いためでしょう。判決がどうなるかは分かりませんが、常識的な判断を期待したいですね。

(西辻勇人)