「知」の結集 ゆびすいコラム

2019.09.11

相続人が認知症になってしまったら

 相続や生前対策のご相談を受ける際に、ご自身や配偶者が今後認知症になってしまったらと心配に思われている方が増えてきています。厚生労働省の発表によれば、2025年には認知症患者は約700万人に上り、65歳以上の5人に1人が認知症になる可能性があると言われてます。
 認知症である相続人がいた場合、相続の手続きに手間がかかることがあります。
 
 今回は、「配偶者が認知症で相続発生時点で施設に入居」し、「成年後見人について選任しておらず」、さらに「被相続人は生前に遺言書を作成していない」場合の手続きと生前対策についてご説明したいと思います。
 
<手続き>
 ・遺産分割協議を行う際に成年後見制度の利用が必要
認知症等の理由で判断能力が不十分な方が、財産を管理したり、契約を結んだり、遺産分割協議をする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。成年後見制度とは、このような場合、自分の代わりに第三者に判断してもらうことで、法的な手続きを行えるよう作られた制度です。
今回のように遺言書がない場合、相続手続きを進めていく中で遺産分割協議を行う必要があります。相続人が認知症である場合、遺産分割協議を行うことができません。遺産分割協議行うためには、まず成年後見人を選任する必要があります。
 
 ・相続人である成年後見人は遺産分割協議の代理権がなくなる
選任時、相続人である成年後見人は代理権がなくなる為、注意が必要です。認知症である相続人と成年後見人が同じ相続人という立場になってしまうと、成年後見人である相続人が多く財産を取得した分だけ、認知症の方が取得する財産が少なくなるという関係が成り立ってしまうからです。この場合、家庭裁判所に特別代理人の選任申立てを行い、遺産分割協議における認知症である相続人の代理人を決めなければいけません。
 
<生前対策>
 上記のような煩雑な手続きを回避するために以下の対策が考えられます。
 ・遺言書の作成
 被相続人が生前に遺言書を作成していれば、遺産分割協議を行わず、遺言書の内容に従い遺産を分割することができます。相続人に認知症の方がいる場合は、成年後見制度の手続きを行わないで済むため有効な手段です。
 
 ・家族信託の利用
家族信託とは、被相続人が認知症で自身の財産を管理できなくなる前に、保有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託し、代理で管理や運用してもらう契約のことです。家族信託は遺言書と異なり、ご自身の財産を子だけでなく、孫の代まで財産の承継方法を決めることができます。
 
林 宏樹
 
 
相 続