「知」の結集 ゆびすいコラム

2019.12.02

2021年介護保険制度改正に向けた議論について(前半)

 2019年2月から、介護保険制度改正に向けた議論が社会保障審議会の介護保険部会で進められています。
 そこでは、「これまでの地域包括ケアシステムの深化・推進に取り組みつつ、2025年以降の『現役世代人口の急減』という新たな重要課題への対応を図っていく必要がある」と述べられています。
 中でも「持続可能な制度の再構築・介護現場の革新」という検討項目では、介護事業所さまの給付費や利用者さまの負担に直結する論点でもあるため、特に動向が注目されているところです。
 
 検討課題として挙げられているのは以下になります。
 
(1)被保険者・受給者範囲
(2)補足給付に関する給付の在り方
(3)多床室の室料負担
(4)ケアマネジメントに関する給付の在り方
(5)軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方
(6)高額介護サービス費
(7)「現役並み所得」、「一定以上所得」の判断基準
(8)現金給付
 
 (1)~(4)について、簡単に解説していきます。
 
(1)被保険者・受給者範囲
 この論点は、介護保険料の負担開始年齢を引き下げるかどうかということです。前回の法改正でも審議がされています。
 現在は介護保険料の負担は40歳から始まります。介護保険サービスはその子どもの世代が支えるという考え方があり、制度創設時の2000年では、親が65歳以上となる子の年齢が40歳だったことによるものです。
  それが2017年では 32.0歳になり、2050年では、65歳の母親の第1子が 33歳になるとのことから、介護保険料負担開始年齢の引き下げがあるのかが争点になっています。
 
 介護保険料の負担が増えることは、法人の負担も増えることになりますし、若い世代の手取りが減ることでもあります。
 消費税増税を実施し、国民に負担を強いたこのタイミングでの介護保険料の負担年齢の引き下げは、見送られる可能性が高いのではないかと考えています。
 
 
(2)補足給付に関する給付の在り方
 介護保険三施設やショートステイの食費・居住費は、保険給付外のため全額自己負担となります。ただし、住民税非課税世帯に属する低所得者の場合は、自己負担額の上限が段階ごとに設けられていて、それを上回る場合は超過分が給付されます。これを補足給付といいます。
 本人の所得に加え、一定額超の預貯金がある場合は補足給付の対象外となるなど、在宅 で暮らす方や保険料を負担する方との公平性の確保の観点から見直しが行われてきました。
 
 前回平成28年の制度改正から継続審議されているのが、補足給付の支給段階の判定にあたり、不動産の保有状況を加味するかどうかという点です。
 実施に至らない理由としては、資産を把握し、それを適切に評価することが困難なこと、不動産を持っている=資金がある、とは言えない場合も多いことが挙げられます。
 
 そこで検討されているのが、リバースモーゲージの導入です。リバースモーゲージとは、不動産を担保とした貸付制度のことです。
どんな仕組みなのか、簡単に説明しますと、入所者は、自分の所有する不動産を担保に借入を行い、食費・居住費など生活費を支払っていきます。入所者が亡くなった後、相続人との調整の上で不動産の売却によって貸付金を回収するというものです。
リバースモーゲージは、手続きが煩雑で申請に時間がかかったり、金融機関、利用者共にリスクがあるため、導入にあたっての制度設計が慎重に検討されています。
 
 
(3)多床室の室料負担
 介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院等などの多床室(4人部屋)の室料について、介護保険の対象外とし、自己負担とすることが検討されています。
 
 特別養護老人ホームについては、平成27年度から、死亡退所も多い等事実上の生活の場として選択されていることもあり、居住費(室料)の自己負担が導入されています(補足給付の対象者は除く)。
 今回検討している、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院等における多床室の室料負担の在り方については、過去の経緯や在宅で暮らす方との公平性の観点も踏まえた検討がされています。
 
 この内容は昨年の骨太の方針でも盛り込まれているところです。
 多床室の室料が自己負担になると、入所者の負担額は、毎月15,000円程度増える見込みです。
 
 
(4)ケアマネジメントに関する給付の在り方
 居宅介護支援(ケアマネジメント)は現在、利用者の自己負担がありません。ここに1割の自己負担を導入することが、前回の法改正時から議論されています。
 ケアマネジメントの自己負担が設定されなかった理由としては、介護保険制度発足当初、介護の「入口」となるケアマネジメントを無料とすることで、介護サービス利用のハードルを下げるという目的がありました。
 
ケアプラン有料化については、①介護給付の抑制と②ケアマネジメントの質の2つの観点から議論されています。
 ①②の主な意見としては、
 ①制度発足以降、ケアマネジメントの請求事業所数、利用者数は年々増加しているため、ケアプランの有料化を行うことで、介護給付費の抑制につながる
 ②2018年の財政審議会では、「利用者負担がないことで利用者側からケアマネジャーの業務の質についてのチェックが働きにくい構造となっていると考えられるため、ケアマネジメントの質の向上を図る観点等から、ケアマネジメントにも利用料負担を設ける必要がある」
との指摘がされています。
 
 これに対し、日本ケアマネ協会などは「利用者のニーズにあっていない」「加算を算定しない事業所の方が安くてよいという誤解を与え、利用者による正当な事業者の評価を阻害する可能性がある」と反対しています。
 
 ケアプランの有料化は賛成派と反対派の意見が折り合わず、実施が見送られてきました。
 今回決着がつくのか、それとも2024年改正に持ち越されるのか…今回の制度改正で最も注目されている点です。
 
 (5)~(8)については、次回ご説明いたします。
 
介護専門チーム 吉田 晴香
 
 
教育・福祉事業