「知」の結集 ゆびすいコラム

2019.12.06

2021年介護保険制度改正に向けた議論について(後半)

前半に引き続き、介護保険制度改正に向けた介護保険部会で議論されている項目について、解説していきます!
 
(5)軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方
 軽度者(要介護1・2)を対象に、訪問介護の生活援助サービスを介護保険から外し、市区町村に移行することが、前回の法改正時から議論されています。
 
 2015年介護給付費等実態調査によると、訪問介護の「生活援助」のみの利用回数の比率は、要介護5は3%程度ですが、軽度者は40~50%超となっており、基本報酬の実績でも軽度者が全体の70%超を占めています。
 また、生活援助のみの1回当たり利用者負担額は、20分以上45分未満で1割負担の場合、平均187円程度(各種加算込)であり、民間家事代行サービスを利用する場合、安くても1時間925円(交通費別)であることに比べ、著しく割安となっています。
 
総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業総合事業)については、既存の介護サービス事業者に加え、NPOや民間企業等の多様な主体が介護予防や日常生活支援のサービスを総合的に実施できるようにすることで、市町村が地域の実情に応じたサービス提供を行うことを目的として、2016年の介護保険法改正で創設しました。
この改正により要支援1・2の訪問介護と通所介護はすでに総合事業へと移行されていますが、現状としては、総合事業の住民主体型サービスなどを行っている市区町村は、全体の6~7割にとどまっています。
要介護1・2の生活援助サービスを介護保険から外しても、その受け皿がないことから、総合事業の整備を優先させるべきとの意見が根強いところです。
 
 
(6)高額介護サービス費
 介護サービス利用時に支払う利用者負担には月額上限額が設定されており、1ヵ月に支払った利用者負担の合計が負担の上限を超えたときは、超えた分が払い戻される-これが高額介護サービス費です。
 
 2017年改正においては、世帯のどなたかが市区町村民税を課税されている方の負担の上限が37,200円(月額)から44,400円(月額)に引き上げられたところです。
 ただし、介護サービスを長期に利用している方に配慮し、同じ世帯の全ての65歳以上の方(サービスを利用していない方を含む。)の利用者負担割合が1割の世帯は、年間446,400 円(37,200円×12ヶ月)の上限が設けられ、年間を通しての負担額が増えないようにされました。(3年間の時限措置)
 
 介護保険制度の高額介護サービスの限度額は、制度創設時から医療保険の高額療養費制度を踏まえて設定されています。
 その医療保険制度における高額療養費については、2018年8月から70歳以上の方については、現役並み所得区分が細分化され、上限額は、年収約383万~約770万円が44,400円、年収約770万~約1160万円が93,000円、年収約1,160万円以上が140,100円とされたところです。
 
 介護保険の高額介護サービス費を、サービスを利用している方と利用していない方との公平性や、負担能力に応じた負担という観点から、医療保険の高額療養費制度に合わせるかどうかが焦点になっています。
 
 
(7)「現役並み所得」(3割負担)、「一定以上所得」(2割負担)の判断基準
 介護保険の利用者負担割合は、制度創設以来、所得に関わらず一律1割としていましたが、2015年8月に2割負担の導入、2018年8月に3割負担の導入がされました。
 年金収入等280万円以上(夫婦世帯の場合は346万円以上)は2割負担(「一定以上所得」のことです)に該当し、年金収入等340万円以上の(夫婦世帯の場合は463万円以上)は3割負担(「現役並み所得」のことです)に該当します。
 
 今回の審議では、その判断基準の見直し、つまり、基準の引き下げが検討されています。
 現在、2割負担の対象者は全体の20%、3割負担の対象者は全体の3%だそうです。この判断基準が引き下げられると、この対象者は当然、拡大することになります。
 
 
(8)現金給付
 現金給付は、ドイツで導入されている仕組みです。
 介護保険サービスを利用していない要介護者を、その家族が介護している場合、「在宅介護費」として一定額が支給されるというものです。
 
 現金給付の導入には、総介護サービス費の抑制に寄与しているとして、賛成する意見もありました。
 しかし、現金給付の導入は、家族介護の固定化につながり介護の社会化という制度の理念や介護離職ゼロ・女性の活躍推進の方針に反している、などの消極的な意見が多いです。
 前回2016年も議題として挙がっていますが、「現時点で現金給付を導入することは適当ではないと考えられる。」とされたところです。弊社としては、今回も継続審議となり見送られるのではと考えております。
 
 
 以上このメルマガでご紹介してきました8つの検討課題の多くは、前回から継続審議されており、いつ導入されてもおかしくない内容も含まれていると言えるでしょう。
 介護保険部会での審議は年内でとりまとめられ、2020年1月からの通常国会で介護保険法改正案が提出されることになります。
 
 また新しい情報が入り次第、お知らせさせて頂きます!
 
介護専門チーム 吉田 晴香
 
 
教育・福祉事業