「知」の結集 ゆびすいコラム

2021.10.26

「ウィズコロナ」-公益業界における今後の労務課題と対応方法

現在、日本のワクチン接種率は63.1%(令和3年10月8日公表)となり、感染者数も一時期と比較するとかなり減少しました。もちろん第〇波が控えている可能性も十分にある事から、今後もコロナとうまく付き合いながら、法人は事業活動を行っていく事が必要となるでしょう。
 
 
希望的展望ですが、今後は次のようになっていくのではと考えております。
 
①ワクチン接種率が100%に近づく。
②感染しても重症化しない事が明らかになり、
 陽性者発覚や濃厚接触者の発生があっても事業活動が安定的に行われる。
③ウィルス自体の無力化またはほぼ致死に至らない薬が開発される等、
 現状のインフルエンザと同様の扱いになり、従来通りの事業活動が行える。
 
現状は①に踏み込めた状態であり、従来通りの事業活動が可能になるまで時間をまだ要することでしょう。それまでの間はコロナと付き合っていく必要があり、その付き合い方にこそ人事労務の知識が活きるものと考えております。
 
では③に至るまでにどんな課題と向き合う必要があり、どう対応するべきでしょうか。
私は次のように考えております。
 
【課題】
(A)ワクチン接種を従業員に強制できるか、接種率を把握できるか
(B)濃厚接触者等、陽性者の労働法等における対応
(C)給与の支払い方
 
以上を掘り下げてまいります。
 
 
【対応】
(A)ワクチン接種を従業員に強制できるか、接種率を把握できるか
結論は「できません」。
強制力のある法律はなく、事業所だからといって強制できるものではありません。またそれを理由に職場での不利な取扱いや解雇、退職勧奨は許されるものではありません。
 
2.ワクチン接種を受けていない人に対する差別的扱いの防止
新型コロナワクチンの接種は強制ではなく、接種を受ける方の同意がある場合に限り接種が行われます。職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていないことを理由に、職場において解雇、退職勧奨、いじめなどの差別的な扱いをすることは許されるものではありません。
特に、事業主・管理者の方におかれては、接種には本人の同意が必要であることや、医学的な事由により接種を受けられない人もいることを念頭に置いて、接種に際し細やかな配慮を行うようお願いいたします。
 
とはいえど、公益事業(保育園、幼稚園、認定こども園、介護施設、他)において、職員がワクチン接種せずに重症化した結果、・・・
 
①長期入院による人員減
②風評被害への発展
 (例)ワクチン未接種/拒否する職員がいるなら子ども/親族を預けられない
    ワクチン摂取が進んでいない施設に就職したくない、等
③その他
 
以上を懸念すると事業主としては「接種してほしい」と思うのが一般的でしょう。
ばらつきはあるものの自治体の中にはこうした公益業界をターゲットにワクチン摂取を促進する働きかけ(優先接収等)をした例もあるぐらいです。
 
しかし「強制はできない」ので、接種を「促す」以外に手段がありません。
なお、ワクチン接種率を把握する権限も法人にありませんが、欲しい情報の1つです。
 
で、あれば「特別休暇(有給)」を創設する事は1つの手段となりえるでしょう。
ただの福利厚生のように思われることもありますが、そうではありません。
少なくとも2回目を接種する方は副反応が出る方が多い為、休みを取得されます。
「年次有給」であれば取得理由を把握できませんが、
「コロナワクチン接種に伴う特別休暇」であれば「取得理由を把握できます」。
 
既に接種時に有給を取得された人には有給を戻してあげてもよいでしょう。
おのずと手をあげて有給を戻してもらう職員も出てくるので、
結果として法人は待っていてもワクチン接種率を把握できる事になるでしょう。
 
①~③のような被害に発展しないように、接種を促し、その促す方法は法的な範囲内、または法律を超える部分で補い、法人にも職員にもメリットのある状況を作り出しましょう。
(B)濃厚接触者等、陽性者の労働法等における対応
コロナに関連して一番お問い合わせが多い質問といっても過言ではない課題です。
しかし、大枠では実は2つしかありません。そこから分岐していくので根底的な考え方を
ご理解頂けますと幸いです。
 
感染症法に該当するか否かのほぼ2択(①、②)
 
①濃厚接触者及びその接触者:感染症法の対象者に該当しません
 感染症法の対象者に該当「しない」のであれば、就業禁止になりません。
 つまり「働ける状態」にある事になります。
 
 しかし、陰性か陽性かわからない状態の人を働かせるわけにはいきません。
 このため、次のような流れで分岐していきます。
 
  ◆陰性、陽性と判断がつくまで ⇒ 休業/有給
    A.陰性だった場合
      保健所指示まで待機  ⇒ 休業/有給 ・・・ (1)
    B.陽性だった場合
      就業禁止になります  ⇒ 欠勤扱い  ・・・ (2)
 
      ※休ませた時点ではどちらにするか、という判断は
       中々できないものと思います。一旦落ち着いてから
       陰・陽が把握できたら、(1),(2)の扱いを決めましょう。
 
      ※有給は「本人の権利」ですので、事業主が有給とする事は
       法律上できません。休業とすると給与の約6割(平均賃金)による
       支払いとなり、職員は給与を満額もらえなくなるので、有給取得を
       促す意味で選択肢を与えても良いでしょう。
 
②陽    性    者 :感染症法の対象者に該当します
 
  コチラは場合分けする事なく、発覚した時点で前述した(2)の通り
  就業禁止で欠勤扱いになります。公的に就業禁止になる為、
  労働日自体がなくなりますので、有給を使用する余地がありません。
   ※有給とは「労働日」に使用するものです。
 
(C)給与の支払い方
 前述した(B)に関連して、給与の支払い方法を把握している必要があります。
 考えられるパターンは次の3つ(一部分岐あり)しかありません。
 
  ①休業手当
  ②有給による対応
  ③欠勤扱い ⇒ 労災 OR 私傷病
 
  ①休業とはなにか 
    「法人の都合で」職員を休ませる事を指します。
    この場合、労働者は「働きたいのに機会を失う」事になります。
    労働基準法は労働者を守る法律であり、こうした場合にも保護を置いており、
    それが「休業手当」の支払いです。
 
    詳しい計算は省きますが、概要としては「労働者の1日分の賃金を直近3ヵ月
    から算出し、その6割以上を休業手当として法人が払う義務」があります。
 
  ②有給による対応
    文字通りですが、有給が使用されますので月給者であれば使った日の
    給与が補償されます。
 
  ③欠勤扱い
    ノーワーク・ノーペイの為、休んだ日について給与は発生しません。
    しかし、それでは労働者は生活が困難となってしまう場合があり、
    その為にいつもかけている保険が力を発揮しますが、2パターンあります。
 
    (★)私傷病の場合(社会保険、私学共済等)
      ⇒仕事とは全く関係ないところで感染した場合を指します。
       この場合、陽性⇒就業禁止⇒欠勤、となった場合は
       「傷病手当金」を申請する事で一程度の給与補填が可能です。
 
    (★)労災の場合(労災保険)
      ⇒仕事が原因で感染した場合を指します。
       「仕事が原因」をどの範囲まで定義するかは難しいところですが、
       もし該当するのであれば「休業補償給付」を受けられます。
        ※労災か否かを判断するのは、事業主でも本人でもなく監督署です。
 
以上の通り、コロナになった(かもしれない)時点からコロナから復帰するまでの間について発生しうる事項を課題~対応としてまとめさせて頂きました。
 
ワクチンの接種率は上がってきたものの、コロナ禍にあることに変わりはなく、
油断できない状況です。
 
本稿を参考に対応方法を把握して労務的にも「ウィズコロナ」な事業活動を
実施して頂く事ができましたら幸いです。
 
社労事業部 田中 和臣
 
 

教育・福祉事業